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アブソルート代々木上原探偵事務所 「アメリカの友人」 第15回 Chapter 4-5

  • Posted by: 高田
  • 2013年11月22日 11:37

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Chapter 4-5

 食事を終えた3人が、和やかな雰囲気を残したまま席を立った。
「いやぁー、うまかった! やっぱ店で出来たてを食べるのはいいよなー!」
 美央とケビンがニコニコしながら油井を見ている。
 食事中の会話は、日本食などの食に関するものが中心で、多少の気まずさを引きずっていた油井も喜んで会話に参加した。素材を生かす技術や、日本食の健康神話の信憑性、またアメリカの日本食レストランの変わり種メニューの事など話題は尽きなかったが、美央がケビンに通訳をしなくてはならない分、会話が「弾むように」進んだとは言えなかった。
 油井が改めて形式的に聞いた。
「本当にごちそうになってしまっていいんですか?」
「もちろん! 今回だけとは言わずに、またその内いっしょに食べにきましょうよ、ね?」
「It was very good. I like it here. Let’s come back here again soon.(とってもおいしかったです。また食べにきましょう)」 
 さっきまでのぎこちない雰囲気が、お腹が満たされた事によって完全に消え去っていた。会話の中で、アメリカからの逆輸入的な食材である「ソフトシェルクラブ」を、美央が苦手という話が出たので、油井がそれをおいしく調理する店を探して、また一緒に食事をすることになっていた。
 ケビンがテーブルの上の伝票を取ると、美央にさりげなく目配せをした。財布には必要最低限分のお金しか入れていないケビンのために、美央があらかじめ1万円を渡していたのだ。ケビンは日本に来て以来、ほとんど贅沢をした事がない。たまにバーに行くぐらいで、それも月に1度か2度のささいな贅沢だ。美央との外食でも代金は出来るだけ自分が持つ努力をしてはいるものの、折半、もしくは奢ってもらってしまう事も度々あった。
 今回の食事は美央が提案したものの、ケビンに恥をかかせまいという美央の気持ちを受けとめ、素直にお金を借りることにした。だが引っ越し費用で貯金をほとんどはたいてしまうケビンが、返済の出来る見込みはないことは美央も知っているし、これから同居をするに当たって、財布はひとつにするつもりでいたので、美央にとっては自然のことだった。
 レシーバーをテーブルの上に置いたままにしていた油井は、「これでコイツもお役御免かな」とつぶやきながら上着のポケットに仕舞った。そのまま階段を降りて行こうとする油井を、美央が呼び止めた。
「話を蒸し返すようで申し訳ないんですが、私はあなたのパートナーに起こった出来事、いえ、あなたのパートナーの事が気になっているんです。もしよければなんですけど、その『ソルト』というあだ名の方に、一度お目にかかる事、出来ますか?」
 油井はアメリカでの出来事と塩沢との関係を再度否定しようとしたが、相手がそうだと信じ込んでいるというよりも、結果的に自分の態度が相手にそうだと告げてしまったらしいという事実を認めざるを得なかった。店内の前面は一面ガラス張りだが、内側には大きな障子があり、外から見えなくなっている。その壁の向う側、塩沢がいるはずの方向を一瞥すると、油井は観念して言った。
「あなたが僕の相棒に、個人的な興味で会う事は出来ないでしょうね。なんせ、アイツは依頼者にも姿を見せないストイックな調査員なので。でも、あなたが会いたがっていた事は伝えておきますよ。申し訳ないです」
「―――そうですか、分かりました」
 美央は確認が終了したとでもいうようにひとつ頷くと、突然油井に抱きついた。それを見たケビンが驚いて背後のテーブルに足をぶつける。
 美央は油井を抱きしめたまま、「あなたのパートナーに直接こうしてあげたかったけど、私の代わりにハグしてあげて下さいね」と言って離れた。
 油井は体中に妙な汗をかきながら、うんうんと何度も頷いた。

 一階で会計を済ませた三人は、ケビンを先頭にして自動ドアから外へ出て行った。外へ向かって歩きだした途端、ケビンの体が見えない壁にでもぶつかったかの様によろめいた。ケビンは体勢を立て直すと、その見えない壁を探すかのように辺り一帯に手を伸ばした。だが、その手が触れるものは空気だけだ。
 ケビンが納得がいかないという表情で美央を振り返ると、美央は「Well, I didn’t know you order Sake. Are you OK? (お酒をオーダーしていたなんて知らなかったわ。大丈夫?)」と、からかった。
 だが対照的に、体を硬直させて立ちすくんでいる油井の表情は青くなっている。慌ててガラス張りの建物に映っているはずのモノを探した。案の定、油井はそこにある人影を見つけた。
 長身痩躯の塩沢が、暗い眼差しでケビンを見つめていた。
 本体は見えないのに、その影だけがガラスに映っている。吸血鬼の姿が鏡に写らないのとは逆で、塩沢は鏡や光を反射する物質にのみ、その姿を映し出すのだ。
美央が不思議がるケビンの背中を叩いて先に進ませる。ふたりはガラスの壁に映る塩沢の存在には全く気づいていない。塩沢はケビンの手が届かないぎりぎりの位置に立ちながら、ふたりのやりとりを見ている。
 油井は、「透明人間」の塩沢とガラス越しに目が合うと慌てて眼を逸らして、美央とケビンを斜め前の不動産事務所に戻るよう促した。ふたりとの距離が開くと、油井がガラスに映っている相棒に話しかけた。
「と、とにかく、後でゆっくり話そう、な? 俺はバイトを終わらせてくるから、お前は事務所で待っててくれ。いいな」
 油井は小声でそう言うと、急いで事務所に向かって走り出した。
 塩沢は何も言わず、3人が建物に入っていくまで、じっとその背中を見つめ続けていた。

(Chapter 5へ つづく)

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お昼の「とんかつ武信」はこんな感じです。印象的な外観です。

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