- 2013年7月16日 16:24
Chapter1-3
目の前の自動ドアが開くと、ひとりの外国人男性が店から出てきた。店内の人間に、訛りのある英語で別れの挨拶をしている。どうやらフランス人らしい。ケビンは意外そうにそのフランス人を見てから、続けて店内に目を向けた。
店の入り口付近には、派手な背広に身を包んだ小太りの男が立っていて、フランス人に向けていた愛想笑いを顔に張り付けたままケビンと美央を見た。もう一人の社員らしき男性も、自動ドアのボタンを押して閉まらないようにしながら、外にいるケビンと美央に微笑みかけている。ケビンと目が合うと、小太りの男性の愛想笑いが引きつった笑みに変わった。
ケビンは慌てて隣に立つ美央を見た。美央はフランス人の方を見ていたため、店内の様子には気づいていない。ケビンはこの先に起こるであろう光景を予感して、思わず天を見上げた。だが、ケビンが懸念している事態は、店の中ではなく店先で起ころうとしていた。
外へ出てきたフランス人男性と、歩道を歩いていた50歳前半の男性が、店を出て5メートルほどの場所でぶつかってしまった。慣れないスマートフォンを弄りながら歩いていた日本人男性は、近づいてくるガイジンを見て慌てて避けようとしたのだが、フランス人男性と日本人男性は同時に同じ方向に移動してしまい、そのままぶつかってしまった。
日本人男性の手からスマホが落ちて、ガシャンと地面で音をたてた。地面に転がる自分のスマホを見て、日本人男性が目を剥いた。
「あーっ!」
「ス、スイマセン……」
フランス人が急いでそのスマホを拾い上げて、日本人男性に手渡す。
日本人男性は、フランス人をひと睨みして何かを言いかけたが、すぐに目をそらすとそのまま目を合わせないようにして歩き去ろうとした。すると、突然美央が男性の前に進み出て言った。
「He said “excuse me” to you in Japanese, right? Even if you don’t speak English, at least you could say “thank you” in Japanese. Don’t you think? (相手は『すみません』って日本語で言ったのよ。英語は話せなくても、最低でも『ありがとう』くらい日本語で言えるんじゃない?)」
恋人の剣幕を見たケビンは、小さくため息をついた。これが彼女の困った性癖だった。中高年の英語を苦手とする世代は、ガイジンを見ると関わらないようにそそくさと逃げて行ってしまう。美央はその様が大嫌いだった。そして、彼女はそういう人物を見つけると、故意に英語で話しかけるのだ。
(Chapter1-4 へつづく)