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アブソルート代々木上原探偵事務所 「アメリカの友人」 第9回 Chapter 3-1

  • Posted by: 高田
  • 2013年9月16日 11:41

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Capter3-1

「では、お車でご案内しますので、どうぞこちらへ」
 男性社員がケビンと美央に声をかけると、
「お願いします」
 と、美央が日本語で答えた。急に日本語を使い始めたことに対して、悪びれた様子は全くない。
 美央が油井を見て小さくほほ笑んだ。油井を見る目から嫌悪感が消えていた。デスク越しに美央とケビンを見つめる油井の顔にも、ホッとしたような笑みが浮かんでいる。ただなぜか、油井はイヤフォンを隠すかつらを被っていなければ、そのイヤフォンも外してしまっていた。
 男性社員に手を上げて合図をすると、ケビンが油井のもとへ来て手を握った。
「Thanks for your help. And sorry about what happened earlier.(色々と有難うございました。さっきの事は本当に申し訳ありませんでした)」
「イッツ・オーケー。(気にしないで下さい)」
 数秒の間を空けてから、油井が答えた。塩沢からの助けなしで答える際に、便利に使っている簡単な英語のセリフだ。前の文脈に照らし合わせて、色々と意味を変えてくれる。
 ケビンに続いて美央も油井の前までやって来ると、
「さっきのアレ、サイコーでした。今思い返してもまだ笑えますもの」
 と、1時間半前とは別人のようなフレンドリーさで、油井の手を取った。
 油井は、嬉しいのか嬉しくないのか判断のつかない微妙な笑みを浮かべている。
「たぶんご近所さんになると思うので、今後ともよろしくお願いしますね」
「オーケイ、です」
 油井はどこかアンニュイな表情を残しつつも、いつものクセでキザなポーズを決めながら片手を上げた。
 美央がケビンを促してから出口へ向かって歩き始めた。が、すぐに油井を振り返り、
「あと、上にいるパートナーさんにもよろしくお伝え下さい」
 と、意味ありげな視線を油井に投げてからから店を後にした。
 強張った笑みを浮かべながら、油井が小さく頭を下げた。
「いってらっしゃいませー」
 美央達が店から出ていくと、油井の隣に立っている社長の顔から営業用スマイルが消えた。無表情のまま油井の横顔を見る。
「油井さん、バレちゃったんですか?」
「……いや、ちょっと、まぁ……、ハイ……」
「とりあえず、ご苦労様でした」
 社長が油井の肩に、ポンと手を載せた。
「で、いつバレたのかは知りませんけど、お客さん、気分を害してませんでした、よね? まぁ、怒ってはいなかったので、大丈夫だとは思いますけど。今回の様な事が頻繁に起こると、店の信用にかかわりますんで。念のため、塩沢さんに再度事務所にお越しいただけるよう説得していただけません? 」
「……それは、無理だと思いますよ、絶対に。アイツは、そもそも接客は出来ない人間なんで……」
「……」
 社長は油井の話を聞いているのかいないのか、眠そうな目で油井を見ている。
「わかりました。では、次回からは気をつけて下さいね。お弁当は、次回でもいいですよね?」
「はい……」
 多少バツが悪そうな小さな声で油井が答えた。
「お疲れ様でした」
 油井は席に戻って行く社長の背中を見つめながら、ここ1時間半の間に起こった様々な出来事を思い返していた。

*

 塩沢と相談をして給湯室から出てきた油井は、「ウソつき」の美央を懲らしめてやろうと意気込んで出てきた。が、すぐには席に戻らず、店の奥にあるオーディオをいじくり始めた。普段からiPodを使用して店内に音楽を流しているのだが、セットリストを覚えていた油井は、その中からお目当ての曲を見つけると、普段の3倍のボリュームでその曲をかけ始めた。
 曲は、ビリー・ジョエルの「オネスティ」だった。
 油井は、曲のサビの部分が来るまでその場で待ち続けた。事務所内の全員が不思議そうに油井を見つめていた。
 曲のサビの部分がやって来た。すると、油井はオペラ歌手の様に大仰な動きをつけながら美央を指さし、口パクをしながら前へ進んで行く。

 …Honesty is such a lonely word.
 Everyone is so untrue.
 Honesty is hardly ever heard.
 And mostly what I need from you.
 (「正直さ」。なんて淋しい言葉なんだろう。
 みんなが本当に不実なのだから。
 「誠実さ」なんて、もうほとんど聞く事もなくなった。
 でも、それこそが、僕が君から欲しい物なんだよ。)

 油井が席の前まで来ると、呆気にとられていた美央とケビンが顔を見合わせた。油井は「どうだ!」と言わんばかりの自信に満ちた表情で、美央に手を差し伸べている。それは「誠実ではない」美央をダンスに誘っているように見えた。全てが滑稽なほど芝居がかっていた。
 美央を見つめるケビンの表情は、完全に凍りついていた。美央のウソが油井にはバレていたという事実に困惑し、どう切り出すべきか必死に考えていた。
 美央は感情を堪えるかのように、グッと息を殺していて、今にも泣きそうな表情をしている。
<勝った!>
 油井が内心で勝利宣言を上げた直後、美央がプッと噴き出して大笑いした。

(Chapter3-2 へつづく)

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ビリー・ジョエル「オネスティ」収録のアルバムです。素晴らしい曲です。ちなみに歌詞の対訳は、自己流なので、一般に出回っているいる物とは多少違います。

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