- 2013年1月20日 10:35
- 「犯罪のない町の小さな犯罪」
Chapter 5
代々木上原駅周辺で食料品を買える店は、コンビニ、青果店、精肉店、お豆腐屋、オーガニックフード店を除くと、中規模の3つのチェーン系ストアがある。1つはCGC加盟チェーンのスーパー「パルケ ミオ」。2つ目が、老舗チェーンの「丸正食品」。そして、代々木上原で最も新しい駅ナカのお洒落なスーパー「TOKYU OX」だ。
その中の「パルケ ミオ」に、平田ツヨシはいた。パルケは斜め前同士で2店舗あり、生鮮を扱う店舗と、飲料、缶詰、お菓子などを扱う店舗に分かれている。
ツヨシは、「食玩」といわれるお菓子をうつろな目で見つめていた。お菓子におもちゃが付いてくるのではなく、メインがおもちゃで、気持ち程度にラムネ一粒がお菓子として付いてくるという商品だ。昔は付録のカード目当てにお菓子を食べずに捨ててしまうという問題がよくニュースになったりしていたが、これならばその心配はあまりない。
ツヨシは最新の仮面ライダーの食玩を見ていた。「シンボル」と呼ばれる世界の主だった宗教を示すマークが刻印されたタトゥと、変身ベルトに装着する「ガイア」と呼ばれる球体のパズルが箱に入っている。宗教戦争を題材としたかなり冒険的な作品で、好き嫌いがはっきりと分かれるダークな作品だが、ツヨシはその暗さに魅かれていて、大好きな番組だった。毎日の勉強漬けの日々から、毎週日曜日の朝、その番組を見ている時だけは別世界で想像力の羽を広げ、陰鬱な気持から解放される気がするのだ。
ツヨシは、そっと棚からお菓子を1つ取り上げた。
「なにしてんの! 早くこっちにいらっしゃい!」
ツヨシの母、愛美が、お菓子を手にしながら床に座り込んでいる息子を見て血相を変えた。ツヨシとは対照的に小柄でちょっと太めな愛美は、神経質そうな目を周囲に向けながら小走りで進んでくる。ツヨシの手からお菓子を取り上げると、元にあった場所に放り投げてから息子の腕をつかむと、引きずる様に立ちあがらせた。
「誰のせいで丸正に行けなくなったと思ってんのよ、アンタは!」
小声ながらも母の鋭い声が、ツヨシの耳に突き刺さった。
「また万引きなんてしてごらん! 今度こそ家から出てってもらうからね!」
「……」
ツヨシは母親の顔を見ることも、それに返事する事もなく、たたぼんやりとした眼差しをお菓子の棚に向けている。
「まったく、何考えてんのか、ホンっト分からない!」
愛美がツヨシの手を掴んだまま歩きだそうとした途端、ツヨシは母親の手を振りほどいて、持てるだけ全部の仮面ライダーの食玩を抱え込んで走り出した。
「あっ! コラっ! バカー!」
声は出したものの、愛美の足は硬直して追いかけることが出来ない。
ツヨシは店の出口を目指して走って行く。
「誰か、誰かボクをつかまえて下さい! ボクを、罰してください!」
ツヨシが悲痛な声を上げた。
自然に出入口の自動ドアが開いた。だが、誰かが入ってくる気配はない。ツヨシは泣きべそをかきながら、外へ飛び出そうとした。
ドアの前に着いたツヨシは、見えない壁にぶつかったかのように店内に弾き飛ばされた。ツヨシの手から離れた食玩が、宙を舞う。その直後、パルケの前を配送のトラックが通り過ぎて行った。
ツヨシが床に倒れたまま、不思議そうな目をドアに向けた。
店内に入り込んできた光が、ふいに遮られた。
床に倒れているツヨシの上に、あるはずのない人影が落ちていた。
(Chapter 6へ つづく)