- 2013年1月17日 12:47
- 「犯罪のない町の小さな犯罪」
Chapter 4-2
慌てふためいて入って来た自分が急に恥ずかしくなり、油井はゆっくりとソファに向かうと、座って足を組んだ。だが、体中から吹き出る汗がソファに染み込んでいくのを感じると、すぐにまた立ち上がり、簡易キッチンの冷蔵庫へ向かった。
「お前、現場を見て来たのか?」
「ああ、偶然だが。救急車に乗り込むボネットさんも見た」
「ふーん………」
油井は、冷たい水を一気に飲み干した。
「じゃあさ。木の上から棒を振りおろしながら飛び降りるってのはどうだ? 力も加わるし、不可能ではないだろ」
「まるで、あの2人のどちらかを、犯人に仕立て上げたいみたいだな」
「いや、まぁ、その可能性の話だよ、単なる可能性の」
「とりあえず、それも無いね。深夜でもない限り、木の上に人がいたら、外から丸見えさ。ボネットさんでなくても、そんな所へは近寄らない。それに、彼が倒れていた場所の周囲に大きな木はない」
油井が不満そうに口を尖らせる。
「じゃあ、誰かを雇って襲わせるとか……?」
「何のために? 彼の事をスリの犯人だと思い込んでいるとしても、なぜ最初に『財布を返して下さい』と問いつめる事もせず、いきなり襲いかかるんだ? おかしいだろう」
「ほら、外人だし、ちょっと怖いし……。あー、クソ! ハイハイ。もういいです 。失礼しました! お前があんまり俺の説を簡単に否定するから、ついむきになっちまった」
塩沢は鏡の中から退場して、ゴミを片しにキッチンへ向かった。
「この事件は、すぐに解決すると思う。彼はミスを犯したからね」
「は? なになに? どういう事だ? ちゃんと教えろよ」
「―――いや、この件には俺たちはノータッチだし、事件解決後に、もし俺の推理が当ってたら話すよ」
「ほーう。じゃあ俺も、『事件解決後』に、俺の本当の推理を教えてあげようじゃないか」
塩沢がいると思われる方向へ向かって、油井がニヤニヤしながら言った。
ふいに反対側にあるデスクの上のノートパソコンがカチャカチャと音を立て始めて、油井がビクッと体を震わせた。
「鏡の裏を通るなっていつも言ってるだろ! ポルターガイストをするなって! 分かってても、まだちょっと慣れないんだからさ!」
塩沢が珍しく小さく笑い声をあげた。
「いや、すまん。ワザとではないんだが。―――では、お詫びにひとつだけ言うと、たぶんこれは、ボネットさんの知人の犯行だ。彼は犯人をかばっている。日本の警察は、十分優秀なんだ。俺たちの出る幕じゃないよ」
「ちぇっ、つまんねーの! 俺たちがこの町に越して来てから、初めて事件らしい事件が起こったってのに、出番はナシかよ」
油井は姿見の角度を変えてから、飛び込むようにソファに座った。
「おや、ウチはただの『盗撮屋』で、人から恨みを買うのが仕事だと思っていたが」
「ぐおーっ!」
油井は、ワザとらしく心臓をナイフで刺されたような演技をしてソファに倒れ込んだ。
「いや、今回もだな、これは未成年の飲酒を警告する意味で、人助けなんだよ。ホントに善意でだな……」
塩沢はみなまで聞かずに席を立つと、ドアへ向かって歩き出す。
「じゃあ、出かけてくる」
「タイムリミットまで後2日だぞー!」
油井がソファに倒れたまま言った。
「了解。間に合わせるよ」
(Chapter 5へ つづく)
渋谷区のHPからの施設紹介ページです。
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