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アブソルート代々木上原探偵事務所 「犯罪の無い町の小さな犯罪」 第5回 Chapter 2-1

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Chapter 2-1

 「アブソルート探偵事務所」は、ワンフロア、ワンルームの細長いビルの4階と5階に入っている。4階が依頼者と相談員が話し合う「相談室」で、5階が「所長室」となっている。「所長室」とは言っても、所長である油井潤の荷物置き場兼別宅として使用されており、普段は4階しか使用されていない。1階はこのビルの管理をしている不動産業者の事務所で、3階と2階にはそれぞれ別会社が入っている。2フロアも借りていると繁盛しているように見えるが、実際には5階はトイレ無しで、部屋のサイズも下の階の3分の2程度なので、本来は4階とセットで借りることが条件となっているのだ。
 アブソルート探偵事務所は、半年前までは5階だけに入っていた。1階の不動産業者の社長が、油井の友人の知り合いだったこともあり、トイレが必要な時は1階の不動産事務所で借りるという条件で、5階のみで入ることが出来たのだ。だが、今ではある仕事のおかげで収入が多少増えたこともあり、4階に入っていたテナントが出るのに合わせて下の階も借りたのだった。

 4階の事務所の奥にある立派な中古デスクの向こうで、油井が電話を受けている。他には応接セットと書類棚があるだけの簡素な事務所だ。ソファの前には、向かい合うような形で縦長のキャスター付きの姿見が置かれている。だが、今は上から布のカバー掛けられていて何も見えない。
 油井は誰もいない事務所で、陽気な声を上げていた。
「大丈夫ですよ。うちの調査員は優秀なんだから。どんな難しい条件でも簡単クリアで失敗なし! その分、お代は少し張りますけどね。え? ええ、もちろん知ってますよ。あの娘今テレビ出まくりですよねぇ。え? なーんだ、室田さん、アッチ側に頼まれてるんだ。ゆすりのネタでも集めてるのかと思いましたよ。いや、ジョーダンですって。はい、はーい。了解です。2、3日中には、バッチリのいい写真を持って伺いますよ。はい、はい、じゃあ、失礼しまーす!」
 油井は満面の笑みを浮かべたまま受話器を置いた。普段は携帯電話しか使用しないが、問い合わせ先が携帯電話の番号ではみっともないと、固定電話を用意している。
「小山内響子ちゃん、と。ごめんねー。御愁傷様」
 ノートパソコンの画面に映し出されているモデル風のかわいらしい女の子に、油井はワザとらしく手を合わせた。
 探偵稼業とは名ばかりで、現在の事務所の収入のほとんどは、写真週刊誌などへ売り込む「スクープ写真」でまかなわれている。事務所開設当初、油井は看板を出せないという悪条件は、ホームページや、口コミで何とかなると軽く考えていた。だが蓋を開けてみると、飛び込みの客は皆無の上、ネットからの問い合わせも全くない。そんな状態が何カ月も続き、貯えが尽きかけた時に、町を歩けば見かける芸能人たちを見て思いついたのが、この「スクープ写真屋」の仕事だった。ものは試しと、塩沢に撮らせた写真を持ち込んだ出版社のロビーで、同じように写真の売り込みに来ていた室田と出会い、その写真の出来に驚いた室田が、自分を窓口とする業務提携を持ちかけた。その結果、月に何回か同業者からまわしてもらう「おこぼれ」の浮気調査などの依頼以外は、この仕事をメインにしているのだった。相棒の塩沢には、「苦肉の策」と説得して仕事をさせているが、今更やめるつもりはない。

 事務所のドアが開いた。だが、人が入ってくる気配はない。
「おう、お帰り、お帰り。やっと次の仕事が入ったよ。よかったー。今月は写真の依頼が少なすぎて、家賃払えないかと思ったぜ」
 油井はコンピューター画面から目を離さずに、まるで部屋に誰かがいるかのように話し続ける。
「小山内響子、最近よく見るだろ? さっそくユニバースが潰しにかかってきたよ。最近上原のバーにお忍びでくるんだとさ。未成年なのにバーでカクテルときたもんだ。身分証偽造の噂もあるし、いくら元ヤンキーでも自覚が無いっていうか、頭が悪いっていうか……。他の元ヤンヤンアイドル達は、『売れっ子』として最低限の自覚を持った行動をするけどな。まぁ、こっちとしては有難い話なんだけどさ」
 油井はデスクから離れて、目の前の応接セットに移動した。これも中古で、中途半端にアンティークを主張しているが、物自体は悪くない。こげ茶色のソファセットも、一応本革だ。
油井は姿見の布カバーをめくると、150センチ73キロの体をドスンと2人掛けのソファにあずけ、正面の姿見を見た。
 そこには、いるはずのない塩沢の姿が映っていた。塩沢は、鏡の中で無表情のまま油井を見下ろしている。

(Chapter 2-2へ つづく)

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事務所の間取りです。

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事務所内のイメージ画像01

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事務所内のイメージ画像02

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