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アブソルート代々木上原探偵事務所 「犯罪の無い町の小さな犯罪」 第15回 Chapter 7

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Chapter 7

 片瀬とき子が再び代々木上原を訪れたのは一週間ぶりで、スリ騒ぎの一件以来初めてのことだった。
 ジェームズ・R・ボネットが傷害事件に巻き込まれたため、スリの件は現在棚上げ中だ。今回は、一週間前にやり残したことを終わらせるために、再びこの地を訪れたのだった。
 とき子は代々木上原駅の改札を抜けて、南口から階段で下へ降りると、タクシーとハチ公バス乗り場をそのまま抜けて、真っ直ぐに駅前の小さな公園へ足を踏み入れた。
 入り口脇に「渋谷区立 西原児童遊園地」と看板が出ているが、10坪に満たない敷地内には、ブランコとベンチしかない。日曜の朝の人通りとしてはそれなりにあるが、みな目の前を素通りして行く。ここで見かけるのは子供の姿よりも、煙草をふかしに立ち寄る大人の姿ばかりだ。そして、今は誰もいない。
 とき子は公園内をぐるっと見まわし、ベンチの下やフェンス脇を確認すると、仏頂面でブランコに腰掛けた。何かを逡巡しているのか、ぼうっとした表情をしていて、以前ほど眼に力もない。財布を無くした時分の慌てていた姿や、その後の憔悴しきった態度とはかなり違う、どこか淋しげな普通の老婆に見える。
 とき子は、もっと前にこの町に戻ってきたかったが、なかなか足が向かなかった。今までは、ある種の勇気を持って、代々木上原へ来ていたのだが、その理由もなくなってしまっていた。今日の用事を済ませたら、もう二度とこの町に来ることはないだろう。そんな決意と覚悟を持って、とき子はや来ていたのだった。
 しばらく遠い目をしていたが、「よしっ」と声を出してブランコから立ちあがった。
 その時、風もないのに隣のブランコが揺れた。とき子は不思議そうに隣を見ていたが、公園の奥の細い裏道から入ってきた20代の若者に気が付くと、視線をそちらへ向けた。目に怒りの色が浮かび上がってくる。
「こらっ、お前! 私に謝らないか!」
 若者が目を丸くしてとき子を見たが、
「ああ、あの時の婆さんか」
 と、うんざりした顔をしながら、無視するようにシャツのポケットから煙草を取り出した。
「年寄りを転ばせておいて、謝りもしなければ、手を貸そうともしない。ふざけた男だね、まったく!」
「あのねぇ、言いがかりをつけるのも大概にしてくれよな。あんたの命令で、ブランコの振りを大きくしてやったんだろ? それで転んじまったのは、まぁ俺も、多少は悪いと思ったさ。でも、ひとりで起き上がって、逃げるように裏口から出て行ったのは、婆さん、あんただぜ。あまりに動きが機敏だったんで、こっちがビックリしたけどな」
「だったら、追いかけてでも謝るんだよ。そんな言い訳が通用するもんかい」
「キッツイ婆さんだな。ま、いいよ。俺が謝って気が済むなら、謝るよ。―――あの時は、失礼しました。これでもういいだろ。もう俺の憩いの時間をじゃましないでくれる?」
 若者は煙草に火を点けると、そっぽを向いて煙草を吸い始めた。近所に住んでいるのか、寝巻と兼用に見えるスポーツウェアの上下を着て、足元はサンダルという出で立ちだ。禁煙の部屋を借りているのか、それとも煙草の煙を嫌う彼女の言いつけを守っているのか、この公園を自分の『喫煙所』にしているらしい。
 とき子は、手にしていた折りたたんだままの日傘で、若者の足を叩いた。
「いって! なにすんだよ!」
「謝れと言われて、簡単に謝ってどうするんだい。情けない男だね、お前は。それよりか、お前、私が落とした財布、ネコババしてないだろうね」
 今度こそ若者の堪忍袋の緒が切れた。若者は、怒気を含んだ顔で怒鳴った。
「いい加減にしろ、このクソ婆ッ!」
 若者がとき子の日傘を奪い取ろうと手をのばした。だが若者は、まるで廊下を走って滑る時のように突然のけ反り、のばしたその手は空を掴んだまま後ろへ転倒した。
 とき子は地面にうずくまる若者を見下ろしながら、
「罰があたったんだよ。この事に感謝して、間違いから少しは学ぶんだね」
 若者は地面に強く背中を打ちつけた衝撃で息が詰まったのか、体を丸めたまま地面にうずくまっている。
 とき子は公園から出ていくと、通りかかった中年男性に若者を起こしに行くように命令してから、十字路の「花市場」へと向かって行った。

(Chapter 8-1へ つづく)

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「西原児童遊園地」

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たまに、お母さんに連れられて、小さい子がブランコに乗っている姿を見ます。ちょっと和みます。

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